関西学院大学 研究活動情報

Kwansei Gakuin University Research Activities

木村健二・生命環境学部専任講師による受精卵において活発な細胞内の流れが起きるしくみに関する研究

2022.03.07

個人研究 Individual Research

 この研究は、細胞内における活発な流れ(細胞質流動)の制御メカニズムの解明を目的として行われている。ヒトも含めて多くの動物の受精卵の中では、細胞質流動が生じることが知られている。活発な細胞質流動を起こす受精卵は、その後、正常に発生する質の高い卵である確率が高く、体外受精に重要な「良い卵」と「悪い卵」を区別するための指標の候補として注目されている。したがって、受精前後の時期に細胞質流動をスタートさせることは発生に重要である。しかし、細胞質流動をタイミングよく引き起こすためのメカニズムの理解は進んでいない。木村講師らは、この問題を解決するため、発生の研究によく用いられる線虫C. elegansというモデル生物の受精卵を研究材料にして、どのようにして細胞質流動が開始されるのか、そのしくみを調べている。この研究により、受精をきっかけとした細胞周期の再開が細胞質流動のタイミング制御を担うという新規のメカニズムが明らかになりつつある。
 木村講師らは、線虫の受精卵における細胞質流動に必要であるkinesin-1(種を超えて保存されたキネシンと呼ばれるモータータンパク質の1つ)に着目している。一般的に、kinesin-1は自己抑制化することで活性制御される。すなわち、受精卵においてkinesin-1の自己抑制化がどのようなきっかけで解除されるのかがわかれば、細胞質流動の制御メカニズムの解明が期待できる。線虫受精卵では受精をきっかけとしてkinesin-1の活性が発揮されることから、受精に伴う細胞周期の進行がkinesin-1の自己抑制化を解除すると木村講師は仮説を考えた。検証のため、細胞周期を進行させる重要なリン酸化酵素であるCDK-1の活性を任意のタイミングで発揮できる遺伝子組換体を樹立した。この組換体を用いて卵でCDK-1活性を早期に誘導したところ、通常は受精後に発揮されるkinesin-1の活性が受精前に発揮されることがわかった。続いて、自己抑制化できない変異型のkinesin-1を有する遺伝子組換体を樹立したところ、この組換体においてもkinesin-1活性が受精前に発揮されることがわかった。これらの結果は、受精に伴うCDK-1の活性化がkinesin-1の自己抑制化を解除して細胞質流動を起こすという木村講師らの仮説を支持している。
 さらに詳細な分子メカニズムの解明を目指して木村講師らは研究を進めている。この研究により、細胞質流動の制御メカニズムの理解が進めば、体外受精の成功に重要な「正常に発生する良い卵」を選別するための非侵襲的な指標として細胞質流動が用いられるようになることが期待される。
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