関西学院大学 研究活動情報

Kwansei Gakuin University Research Activities

山田直子・法学部教授が国際捜査取調べ学会で「江口大和違法取調べ国賠訴訟」を題材に日本の取調べについて報告しました

2024.09.25

学会 Academic Conference

共同研究 Collaborative Research

学会出張 Business Trip

 山田直子法学部教授が、2024年6月17日~21日にカナダのオタワで開催された国際捜査取調べ学会(International Investigative Interviewing Research Group: iIIRG)第15回大会において、「江口大和違法取調べ国賠訴訟」を取り上げ、日本の取調べについて「日本における被疑者取調べと”正義エージェント”仮説」(Suspect Interrogation in Japan and the "Agent of Justice" Hypothesis)と題する口頭報告をおこないました。
 国際捜査取調べ学会は、確固たるエビデンスに基づく捜査取調べの改善と発展を目的として、世界中からその国の第一線取調官と法学・心理学・精神医学をはじめとする幅広い分野の研究者たちにより毎年開催されています。この学会では、高い専門性に裏打ちされた口頭報告や講演がおこなわれ、ポジショントークとは真逆の、真摯かつ活発な意見交換がなされます。その結果、学会参加者間には生産的で透明性の高い国際的な協力関係が築かれ、学会で得た新たな気づきや学び、国際的人脈は、帰国後に各自の捜査取調べの改善取り組みに反映されていきます。
 山田直子法学部教授による上記報告では、日本の被疑者取調べでは、日本国憲法第38条第1項に「何人(なんぴと=いかなる人)も、自己に不利益な供述を強要されない。」と高らかに宣言されている黙秘権を踏みにじるような取調べが日常的に行われているという現状が紹介され、なぜ取調官たちはそうした実務を当然のものとして受け入れて実施しているのか、なぜ取調官たちは取調室という空間を「『聖域』であって、法の支配の及ばぬ場所であり、第三者を立ち入らせるわけにはいかない」と考えずにはいられないのかなどについて分析が加えられました。
 報告を聞き、江口国賠訴訟で再生された取調べ録画映像を視聴した学会参加者たちは、それまで持っていた日本の取調べイメージが根底から覆されて、強い衝撃を受けていました。報告後の質疑応答では与えられた時間のみならず、プログラム終了後も「日本の刑事司法のリアル」に関する質問が止むことがありませんでした。
 コロナ禍が終わり、「風景は美しく、食事は美味しく、人々は優しく、文化は豊かで、そして世界でも類を見ない治安が良い国」として、世界中から日本に観光客が押し寄せています。学会参加者は捜査取調べのプロであることから、特に日本の「治安の良さ」に大きな関心を抱いていました。しかし、日本の刑事司法の課題に関しては、英語をはじめとした外国語による発信自体が非常に乏しいため、山田教授による報告を聞いた学会参加者たちは「きれいごとではなく、実際はどうなのかを知りたい」と強く望んでいました。日本の刑事司法の課題とそれに関する取り組みについて、今後、英語論文による世界への発信の重要性と大きな需要があることが再確認された国際学会でした。
 
バンクーバーの裁判所にて バンクーバーの裁判所にて
バンクーバーの裁判所にて
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