関西学院大学 研究活動情報

Kwansei Gakuin University Research Activities

長田典子・理工学部教授らがアットアロマ株式会社と共同でストレス要因とアロマオイルの心理的効果の実証実験を実施

2020.09.16

論文 Article

学会 Academic Conference

共同研究 Collaborative Research

 世界中に甚大な影響をもたらしている新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行下で、私たちはこれまでの生活様式からの変更を余儀なくされています。とりわけ「Stay Home」の呼びかけにより、出勤、登校、登園を始めとした外出の自粛を求められ、テレワークや、休校・休園中の子どもの対応などを理由に、自宅で家族と過ごす時間が増加しました。この外出自粛による在宅時間増加に伴うストレスの増大が大きな問題となっており、一刻も早い対応策が求められています。このストレスの原因として、例えば職場で働いていた人が緊急事態宣言を機に在宅で働くことになり、家庭と仕事が同じ空間に混在する状況が生まれるなど、以前とは質的に異なる特殊な状況で、新たなストレスを感じていることが考えられます。

 関西学院大学感性価値創造インスティテュート(所長:長田典子 理工学部教授)は、在宅で生活に採り入れられるストレス緩和の方法としてアロマセラピーに着目し、アロマ空間デザインや香りによるブランディングを手掛けるアットアロマ株式会社(以下、@aroma)と共同で、「新型コロナウイルス感染症流行下におけるストレス要因とアロマオイルの心理的効果の実証実験」を行い、その成果を2020年9月10日に「第22回日本感性工学会大会」で発表しました。

 

1.実験結果のまとめ
 実験は緊急事態宣言下の5月中旬に実施。30~40代の男女30名に、@aroma社製アロマオイル(4種)を自宅で使用してもらい、アンケート回収を行った結果、オイルを使用することによりストレス状態から緩和されるという実験結果が得られました。
 ① アロマオイルを「ストレス解消のために使用した人は62%」
  様々なストレス解消法の中でも、アロマオイルを活用した人が非常に多いことがわかりました。
 ② 4種のアロマオイルはいずれも、「気分をポジティブにし、ストレスを緩和する」
  特に、男性よりも女性において大きな効果を発揮したことがわかりました。
 ③ 最もアロマが効果的に働いたのは、「在宅で育児・仕事を行うマルチタスクの女性群」
  得られた結果の中でもマルチタスクをこなす女性に対して、大きな効果を発揮したことがわかりました。

2.実験概要
【実験概要】
・実験期間:5月17日~5月24日(緊急事態宣言下)
・参加者:30名(男性15名、女性15名;31~49歳 平均年齢39.4歳)
・@aroma社製オイル「サプリメントエアー」シリーズ 4種、ディフューザーを使用
<オイルの種類>
 S02ハッピー(原料: オレンジ、ジャスミン、タンジェリン、ゼラニウム、マンダリン etc.)
 S03スタディー&ワーク(原料: ローズマリー、ティートリー、レモン、ブルーサイプレス etc.)
 S04リラックス&ビューティー(原料: カモミール、スパイクラベンダー、ラベンダー、ベルガモット etc.)
 S05メディテーション(原料: サイプレス、クローブ、ロサリナ、ネロリナ、ユーカリ etc.)

【実験方法】
●参加者は、実験期間中はディフューザーを身近に設置し、困ったことがあったときやストレスを感じたとき、解決したいことがあるときにアロマオイルを使用。
●使用するアロマオイルの種類は参加者がその都度自由に4種から選択(アロマオイルの商品名はシールで隠し、A・B・C・Dの4種として区別)。
●毎日9時・12時・15時・18時・21時の5回、最も近い時間で使用したアロマオイルの種類・その時刻・その時の状況や気分・期待した効果など(自由記述)、アロマオイルの使用前・使用後の気分(二次元気分尺度)を回答。
●二次元気分尺度(TDM-ST)では、落ち着いた・イライラした・無気力な・活気にあふれた・リラックスした・ピリピリした・だらけた・イキイキした の8項目に「全くそうでない(0点)」から「非常にそう(5点)」までの6 段階で回答。
 

【結果】
①アロマオイルを「ストレス解消のために使用した人は62%」
 毎日21時の最後の調査の際に、当日実施したストレス解消法をリスト(アメリカ心理学会が示すストレス解消項目)から選択(複数回答可)。最も多い回答がアロマオイルでした。

②4種のアロマオイルはいずれも、「気分をポジティブにし、ストレスを緩和する」
 アロマオイルそれぞれの使用前後での気分の変化(二次元気分尺度)を調査したところ、いずれも気分をポジティブに変化し、ストレス緩和に効果があったことが示されました。また、男性よりも女性において大きな効果を発揮したことがわかりました。

③ 最もアロマが効果的に働いたのは、「在宅で育児・仕事を行うマルチタスクの女性群」
 アロマ使用時の状況の分析から下記4つのグループに分類して結果を解析しました。
 A 仕事専心グループ / 男性6名 
 : 仕事のみにストレスを抱えたグループ
 B 葛藤(子ども)グループ / 女性5名 
 : 在宅で育児と仕事のマルチタスクの葛藤によりストレスを抱えたグループ
 C 葛藤(家事)グループ / 男性2名・女性5名 
 :Bに比べて、子どものストレスは感じていないが、マルチタスクの葛藤を抱えたグループ
 D 活動後グループ / 男性7名・女性4名
 :仕事後、食事後など活動の区切りがついた際に使用したグループ


 

 二次元気分尺度より算出される、「安定度」「活性度」をグラフにすると、いずれも高いグラフの右上が快適な状態を示します。4つのグループいずれも、使用前に比べて使用後に右上にシフトする、すなわち快適な状態に変化することが確認されました。
その中でも、B:葛藤(子ども)グループの変化が一番顕著であり、これにより、仕事と子育てとマルチタスクをこなす女性に対して、アロマがより大きな効果を発揮したことがわかりました。

〇実証実験の詳細データ(日本感性工学会投稿資料)は本学サイトより参照いただけます。
https://ist.ksc.kwansei.ac.jp/~nagata/data/2020_JSKE_2C05-09-01.pdf  


関西学院大学 感性価値創造インスティテュート(所長:理工学部教授 長田典子)
 産業や生活環境における新たな感性価値を創出するため、科学・技術・芸術を融合した新しい方法論の研究を行っています。豊かで持続可能な社会の実現には、質的な発展が不可欠であり、物質的価値から感性価値へのパラダイムシフトが必要です。生活シーンでのわくわく感や快適感、また製品の高級感や特別感といった人の気持ちや感じ方に内在する価値の本質を探究し、“感性価値”として定義し、拡張し、付加価値を生み出す感性価値社会を目指しています。
 現在、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)センター・オブ・イノベーション(COI)プログラム「感性とデジタル製造を直結し、生活者の創造性を拡張するファブ地球社会創造拠点」に参画して研究開発を推進しています。
 HP:  https://ist.ksc.kwansei.ac.jp/~nagata/kvc/about/index.html  

長田典子・理工学部教授 長田典子・理工学部教授
長田典子・理工学部教授

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