時任隼平（高等教育推進センター・教授）がUniversity of Foreign Languages, VNU-HNのNguyen Thi Mai Huong准教授及びHaNoi National University of EducationのNguyen Thi Cam Huong上級講師と高等学校英語科教育に関する共同研究を開始しました．具体的には，2023年の5月12日（金）～25日（木）の間ベトナムから両氏が日本を訪問し，高等学校英語科の授業視察やヒアリング，学会研究会での報告等を行いました．本研究活動は，関西学院大学研究推進社会連携機構の「国際共同研究交通費補助」の支援を受けて実施されました．

　本共同研究のテーマは，「日本とベトナムの高等学校英語教育におけるスピーキング能力の育成に関する比較研究」です．日本滞在中の研究目的は，「日本とベトナムの高等学校英語教育におけるスピーキング能力の育成に関する実践を比較し，双方の教育改善に係る知見を見出すこと」に設定しました．
　本研究の背景には，文部科学省による「日本型教育の海外展開（Edu-Portニッポン）」など，日本の教育知見を他国に輸出する取り組みと，日本とベトナムの実際の英語教育を取り巻く現状のギャップに対する問題意識があります．これまで，日本はインフラ技術や日本の研究知見を海外に輸出する取り組みを行ってきており，ベトナムにおいても「ベトナムにおける日本式幼児教育・保育法を実践できる幼稚園教諭を育てる人材育成事業」や「初等義務教育･ミズノ ヘキサスロン運動プログラム導入普及促進事業」の等が行われてきました．これらの取り組は当該分野では有益であるものの，英語教育分野に関しては，日本とベトナムは共に国民の英語能力指数を示すThe EF English Proficiency Index (2022)において，日本は111国中80位，ベトナムは60位と低～中にランキングされており，英語科教育においてはベトナムよりも日本の能力指数が低く，同じようなランキングに位置づく国同士で協力し合いながら，能力向上に関する方法を模索していく必要があると言えます．つまり，「輸出する側ーされる側」という関係性だけではなく，「共に高みを目指していく関係性」が重要になると考えられます．
　本研究では，「日本とベトナムの高等学校英語教育におけるスピーキング能力の育成に関する比較研究」を今後進めていくための第一歩とし，日本における高等学校の視察及び文献研究のレビュー結果を学会研究会で行いました．具体的には，以下の学校を訪問させて頂き，授業視察および担当教員へのヒアリングをさせて頂きました．

大阪教育大学附属高等学校平野校舎
大阪府立箕面高等学校
大阪府立長吉高等学校
関西情報工学院専門学校高校課程
和歌山大学教育学部附属特別支援学校
関西学院高等部

また，日本教育工学会研究会にて，以下のタイトルで報告を行いました．
”The Comparison Study on English Speaking Education between Vietnam and Japan through Literature Review”

　学校視察及び文献レビューの結果から，以下が示唆されました．

・日本とベトナムは極めて類似する教育課程により初等中等教育を展開している．
・日本とベトナムは共に大学入試に関する圧力が，生徒及び教員にとって圧力となっている．
・いずれの国の英語教育も，OECDのPISAやEducation2030の影響を多分に受けている．
・先行研究においては，両国ともスピーキング能力を育成するための教育方法の開発に着眼した研究知見が多く蓄積される傾向にあり，ベトナムの場合はそれに次いでICT活用，日本の場合はテストの在り方が多く研究されていた．
・今後，両国を比較していくためには，比較研究そのものの理論を用いる事に加え，TPACKなど教育学的枠組みを用いた実践の比較分析が必要になる．

　今後も共同研究を継続し，実際の授業を事例とした比較検討を行っていく予定です．最後に，授業視察やヒアリングを承諾いただいた学校関係者の皆さま，研究費を支援頂いた関西学院大学研究推進社会連携機構に感謝致します．ありがとうございました．