関西学院大学 研究活動情報

Kwansei Gakuin University Research Activities

大橋毅彦・文学部教授 海港都市神戸の文芸文化をめぐる研究

2024.04.03

個人研究 Individual Research

「海港」「開口」「邂逅」といったいずれもの〈カイコウ〉があてはまる神戸は、1920年代(大正)から昭和の戦前・戦後、そして現在に至るまで多彩な文学と文化空間を生み出し、育んできた街である。そしてそこには、多少なりとも往時「原田の森」と呼ばれる地域に学び舎があった関西学院の出身者や彼らとゆかりのあった人たちが関与している。一番古いものとしては2010年に発表した「一九二〇年代の関西学院文学的環境の眺望」から、2023年に発表した「一九五〇年の二つの文化的イベントから展望する芸術家たちの協同」まで、9編の論考を単著『神戸文芸文化の航路―画と文から辿る港街のひろがり』に収め、2023年度個人特別研究の成果として、京都琥珀書房の「鹿ケ谷叢書004」として刊行した(2023年3月)。拙著刊行日は3月7日。奇しくも関西学院出身で神戸モダニズムを代表する詩人竹中郁(1904-1982)の命日である。この「神戸の詩人さん」こと竹中郁の多様なジャンルを軽快に飛び歩く姿にスポットをあてもすれば、社会の底辺に降り立った地点から詩作をスタートさせた、いまではほとんど忘れ去られている井上増吉という詩人も論じて、神戸の文学場が何層にもなっていることを明らかにした。同様の問題は、時代が下って、陳舜臣や小田実の創作世界を考察した章を読むことによって、なお明らかになるであろう。その一方、今回の研究では、そういう個別の文学者の航跡を追うことに止まらず、鯉川筋画廊発行の『ユーモラス・コーベ』という機関誌、戦後開催された「グランド・バレエ・アメリカ」や中国現代版画展覧会といった文化的催しを取り上げ、同時代神戸の文化空間の豊かさを俯瞰的に考察する点にも力を注いだ。今後はさらに、新聞メディアならびに戦後占領期に神戸で創刊されたいくつかの注目すべき総合雑誌と同人誌にも調査の手を伸ばしていくつもりである。
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