河鰭一彦・人間福祉学部教授による柔道における頭頸部外傷リスク群簡便抽出法の有効性に関する実証研究
2022.06.08
その他 Others
河鰭一彦・人間福祉学部教授は、柔道における頭頸部外傷リスク群簡便抽出法の有効性に関する実証研究を行いました。内容は以下の通りです。
平成20年度、中学校の保健体育分野において「武道」が必習となりました。その数年前から武道の主要教材になると予測された「柔道」の危険性については学会等アカデミックの立場から問題提起され、各種報道機関を賑わすことになりました。当時、柔道に関わる者は各々が置かれた立場で「危機感」を感じたものと推察されます。
一方、柔道の危険性を舌鋒鋭く指摘していた内田良名古屋大学准教授(肩書きは現在時点以下同様)は、的確なデータ収集をもとに精緻な分析を加えられていました。
しかし、死亡や高次脳機能障害の発生状況は「課外授業に集中していること」「課外活動の柔道と体育の教材として用いられる柔道の違い」についての議論を深めていない考察には多くの疑義が提示されていたのも事実です。河鰭一彦・人間福祉学部教授は内田准教授とある学会で議論できる機会に恵まれました。
河鰭一彦・人間福祉学部教授による本研究で報告する内容は、その議論からもヒントを得ました。このような社会的要請・課題に対して講道館ならびに日本柔道連盟は指導者制度改革とこれに伴う講習会制度の充実等の施策で対応されました。河鰭・教授も柔道指導者のひとりとして所属する柔道連盟において開催された指導者講習会に参加しました。多くの教訓を得ることができ非常に満足する内容でした。
主任講師は大東文化大学高橋進教授であり、講師の先生方と受講生である柔道指導者がお互いに刺激し合うことで生み出された熱気を今でも思い出すことができる。その講習会において高橋先生が「指導者が行うべき柔道修行者に対するリスク管理」というテーマでの講話中「生徒や修行者が初習の段階で①仰向け姿勢をとらせ②頭頸部屈曲位をとらせ、その肢位を維持するように指示する③指導者は生徒や修行者の額に適度な圧力を加え下方に押す④指導者の下方に押す圧力に対して抵抗できない生徒や修行者を抽出する⑤抽出群を柔道事故高リスク群として認識し授業中や練習中にこれまで以上の注意を払う」という「柔道初習者の事故高リスク群簡便管理法(以下「簡便リスク管理法」)を教授いただいた。受講後、筆者の勤務する大学のいわゆる教養教育科目の柔道を教材とする体育系授業や非常勤講師を務める他大学において担当する保健体育教員養成課程の柔道授業の中で教授いただいた「簡便リスク管理法」を実施したところ、確かに「仰臥位頭頸部屈曲時前額部下方圧力」に抗することができない学生が存在した。一クラスほぼ30人のうちひとりいるかいないかではあるが柔道事故高リスク群に分類される受講学生が存在することに対して驚きとともに背筋に冷たいものを感じた。その理由は「発育発達最終段階の大学生でも柔道事故高リスク群に分類される者が散見されるのであるから、発育発達途中の中学生が発揮する頭頸部筋力不足は大学生より増える」であろうことが容易に予想されるからであった。
それにしても教授いただいた「簡便リスク管理法」は実効性が高く、特別な技術を必要としないものであり、筆者自身が実践すると同時に、保健体育教員養成課程柔道授業の中で「保健体育教員が柔道を教材として用いる際には生徒に必ず行うべきリスク管理法である」とし受講学生に技術取得を義務づけることとした(今日まで継続して指導している)。この柔道授業の中で「簡便リスク管理法」を実践した時、「テスト実施学生:先生どのくらいの力で押すンですか?」「筆者:どのくらいて、強くだよ」「テスト実施学生:じゃいくよ、せーの」「テスト被験学生:痛い!」想像していただいた通りテスト被験学生は予想より大きな力を負荷されたため畳に後頭部をしたたか打ちつけることになってしまった。このようなドタバタコントのような状態が引き起こされることが時々あったと記憶する。もちろん受傷するような事態は皆無である(少し、表現を誇張していることも事実)。この経緯から「柔道専門ではない教員」が柔道を教材として用い「簡便リスク管理法」を実施する時、事前に下方圧迫力を「何kgfで押してください」と明確に指示することができれば「簡易リスク管理法」の有効性が更に増すことになると考えるに至った。
この「何kgf」にあたる数値を算出するためには科学的知見を積み立てる必要があることは容易に推察できた。この積み上げには筆者がこれまで学んできた「生理学的および力学的手法を用いた身体運動の科学的解析」の手法を総動員することが必須であり簡単なようでかなり難しい課題だとも同時に考えていた。受講後、筆者の勤務する大学のいわゆる教養教育科目の柔道を教材とする体育系授業や非常勤講師を務める他大学において担当する保健体育教員養成課程の柔道授業の中で教授いただいた「簡便リスク管理法」を実施したところ、確かに「仰臥位頭頸部屈曲時前額部下方圧力」に抗することができない学生が存在した。一クラスほぼ30人のうちひとりいるかいないかではあるが柔道事故高リスク群に分類される受講学生が存在することに対して驚きとともに背筋に冷たいものを感じた。その理由は「発育発達最終段階の大学生でも柔道事故高リスク群に分類される者が散見されるのであるから、発育発達途中の中学生が発揮する頭頸部筋力不足は大学生より増える」であろうことが容易に予想されるからであった。
それにしても教授いただいた「簡便リスク管理法」は実効性が高く、特別な技術を必要としないものであり、筆者自身が実践すると同時に、保健体育教員養成課程柔道授業の中で「保健体育教員が柔道を教材として用いる際には生徒に必ず行うべきリスク管理法である」とし受講学生に技術取得を義務づけることとした(今日まで継続して指導している)。この柔道授業の中で「簡便リスク管理法」を実践した時、「テスト実施学生:先生どのくらいの力で押すンですか?」「筆者:どのくらいて、強くだよ」「テスト実施学生:じゃいくよ、せーの」「テスト被験学生:痛い!」想像していただいた通りテスト被験学生は予想より大きな力を負荷されたため畳に後頭部をしたたか打ちつけることになってしまった。このようなドタバタコントのような状態が引き起こされることが時々あったと記憶する。もちろん受傷するような事態は皆無である(少し、表現を誇張していることも事実)。この経緯から「柔道専門ではない教員」が柔道を教材として用い「簡便リスク管理法」を実施する時、事前に下方圧迫力を「何kgfで押してください」と明確に指示することができれば「簡易リスク管理法」の有効性が更に増すことになると考えるに至った。
この「何kgf」にあたる数値を算出するためには科学的知見を積み立てる必要があることは容易に推察できた。この積み上げには筆者がこれまで学んできた「生理学的および力学的手法を用いた身体運動の科学的解析」の手法を総動員することが必須であり簡単なようでかなり難しい課題だとも同時に考えていた。このような状況の中、一念発起して研究テーマを柔道研究にシフトし日本学術振興会科学研究費助成事業に応募し「武道必修化に向けた科学的エビデンスに基づく新資料の提供-柔道の衝撃負荷定量化-(平成23年度~平成26年度)」を採択いただくことができた。続けて「授業担当者が頭部外傷の柔道事故リスクを持つ生徒を簡便に把握する方法の開発(平成27年度~平成30年度)」も採択に至り、準備、まとめも含めて都合おおよそ10年間「柔道を対象とした学術研究」に打ち込むことができた。そして、一連の研究成果はPre-paper Discussionとして主に武道学会、日本体育学会において発表させていただいた。本稿ではその研究成果に新たな知見、考察を加えて報告させていただくこととする。
平成20年度、中学校の保健体育分野において「武道」が必習となりました。その数年前から武道の主要教材になると予測された「柔道」の危険性については学会等アカデミックの立場から問題提起され、各種報道機関を賑わすことになりました。当時、柔道に関わる者は各々が置かれた立場で「危機感」を感じたものと推察されます。
一方、柔道の危険性を舌鋒鋭く指摘していた内田良名古屋大学准教授(肩書きは現在時点以下同様)は、的確なデータ収集をもとに精緻な分析を加えられていました。
しかし、死亡や高次脳機能障害の発生状況は「課外授業に集中していること」「課外活動の柔道と体育の教材として用いられる柔道の違い」についての議論を深めていない考察には多くの疑義が提示されていたのも事実です。河鰭一彦・人間福祉学部教授は内田准教授とある学会で議論できる機会に恵まれました。
河鰭一彦・人間福祉学部教授による本研究で報告する内容は、その議論からもヒントを得ました。このような社会的要請・課題に対して講道館ならびに日本柔道連盟は指導者制度改革とこれに伴う講習会制度の充実等の施策で対応されました。河鰭・教授も柔道指導者のひとりとして所属する柔道連盟において開催された指導者講習会に参加しました。多くの教訓を得ることができ非常に満足する内容でした。
主任講師は大東文化大学高橋進教授であり、講師の先生方と受講生である柔道指導者がお互いに刺激し合うことで生み出された熱気を今でも思い出すことができる。その講習会において高橋先生が「指導者が行うべき柔道修行者に対するリスク管理」というテーマでの講話中「生徒や修行者が初習の段階で①仰向け姿勢をとらせ②頭頸部屈曲位をとらせ、その肢位を維持するように指示する③指導者は生徒や修行者の額に適度な圧力を加え下方に押す④指導者の下方に押す圧力に対して抵抗できない生徒や修行者を抽出する⑤抽出群を柔道事故高リスク群として認識し授業中や練習中にこれまで以上の注意を払う」という「柔道初習者の事故高リスク群簡便管理法(以下「簡便リスク管理法」)を教授いただいた。受講後、筆者の勤務する大学のいわゆる教養教育科目の柔道を教材とする体育系授業や非常勤講師を務める他大学において担当する保健体育教員養成課程の柔道授業の中で教授いただいた「簡便リスク管理法」を実施したところ、確かに「仰臥位頭頸部屈曲時前額部下方圧力」に抗することができない学生が存在した。一クラスほぼ30人のうちひとりいるかいないかではあるが柔道事故高リスク群に分類される受講学生が存在することに対して驚きとともに背筋に冷たいものを感じた。その理由は「発育発達最終段階の大学生でも柔道事故高リスク群に分類される者が散見されるのであるから、発育発達途中の中学生が発揮する頭頸部筋力不足は大学生より増える」であろうことが容易に予想されるからであった。
それにしても教授いただいた「簡便リスク管理法」は実効性が高く、特別な技術を必要としないものであり、筆者自身が実践すると同時に、保健体育教員養成課程柔道授業の中で「保健体育教員が柔道を教材として用いる際には生徒に必ず行うべきリスク管理法である」とし受講学生に技術取得を義務づけることとした(今日まで継続して指導している)。この柔道授業の中で「簡便リスク管理法」を実践した時、「テスト実施学生:先生どのくらいの力で押すンですか?」「筆者:どのくらいて、強くだよ」「テスト実施学生:じゃいくよ、せーの」「テスト被験学生:痛い!」想像していただいた通りテスト被験学生は予想より大きな力を負荷されたため畳に後頭部をしたたか打ちつけることになってしまった。このようなドタバタコントのような状態が引き起こされることが時々あったと記憶する。もちろん受傷するような事態は皆無である(少し、表現を誇張していることも事実)。この経緯から「柔道専門ではない教員」が柔道を教材として用い「簡便リスク管理法」を実施する時、事前に下方圧迫力を「何kgfで押してください」と明確に指示することができれば「簡易リスク管理法」の有効性が更に増すことになると考えるに至った。
この「何kgf」にあたる数値を算出するためには科学的知見を積み立てる必要があることは容易に推察できた。この積み上げには筆者がこれまで学んできた「生理学的および力学的手法を用いた身体運動の科学的解析」の手法を総動員することが必須であり簡単なようでかなり難しい課題だとも同時に考えていた。受講後、筆者の勤務する大学のいわゆる教養教育科目の柔道を教材とする体育系授業や非常勤講師を務める他大学において担当する保健体育教員養成課程の柔道授業の中で教授いただいた「簡便リスク管理法」を実施したところ、確かに「仰臥位頭頸部屈曲時前額部下方圧力」に抗することができない学生が存在した。一クラスほぼ30人のうちひとりいるかいないかではあるが柔道事故高リスク群に分類される受講学生が存在することに対して驚きとともに背筋に冷たいものを感じた。その理由は「発育発達最終段階の大学生でも柔道事故高リスク群に分類される者が散見されるのであるから、発育発達途中の中学生が発揮する頭頸部筋力不足は大学生より増える」であろうことが容易に予想されるからであった。
それにしても教授いただいた「簡便リスク管理法」は実効性が高く、特別な技術を必要としないものであり、筆者自身が実践すると同時に、保健体育教員養成課程柔道授業の中で「保健体育教員が柔道を教材として用いる際には生徒に必ず行うべきリスク管理法である」とし受講学生に技術取得を義務づけることとした(今日まで継続して指導している)。この柔道授業の中で「簡便リスク管理法」を実践した時、「テスト実施学生:先生どのくらいの力で押すンですか?」「筆者:どのくらいて、強くだよ」「テスト実施学生:じゃいくよ、せーの」「テスト被験学生:痛い!」想像していただいた通りテスト被験学生は予想より大きな力を負荷されたため畳に後頭部をしたたか打ちつけることになってしまった。このようなドタバタコントのような状態が引き起こされることが時々あったと記憶する。もちろん受傷するような事態は皆無である(少し、表現を誇張していることも事実)。この経緯から「柔道専門ではない教員」が柔道を教材として用い「簡便リスク管理法」を実施する時、事前に下方圧迫力を「何kgfで押してください」と明確に指示することができれば「簡易リスク管理法」の有効性が更に増すことになると考えるに至った。
この「何kgf」にあたる数値を算出するためには科学的知見を積み立てる必要があることは容易に推察できた。この積み上げには筆者がこれまで学んできた「生理学的および力学的手法を用いた身体運動の科学的解析」の手法を総動員することが必須であり簡単なようでかなり難しい課題だとも同時に考えていた。このような状況の中、一念発起して研究テーマを柔道研究にシフトし日本学術振興会科学研究費助成事業に応募し「武道必修化に向けた科学的エビデンスに基づく新資料の提供-柔道の衝撃負荷定量化-(平成23年度~平成26年度)」を採択いただくことができた。続けて「授業担当者が頭部外傷の柔道事故リスクを持つ生徒を簡便に把握する方法の開発(平成27年度~平成30年度)」も採択に至り、準備、まとめも含めて都合おおよそ10年間「柔道を対象とした学術研究」に打ち込むことができた。そして、一連の研究成果はPre-paper Discussionとして主に武道学会、日本体育学会において発表させていただいた。本稿ではその研究成果に新たな知見、考察を加えて報告させていただくこととする。
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